2024年 02月 24日
藪中元外務事務次官の見識 |
ウクライナ戦争は3年目に入った。プーチンがウクライナへの侵攻を始めたとき、SNSなどで一般人だけでなく学者までも「悪のプーチンをやっつけろ」と吠えていたが、コトが簡単、単純にいかない現実を前にして最近はかれらの声が小さくなった。
われわれがなすべきことは安全地帯にいて他国の戦争を煽ることではなく、なぜ戦争が起きたのか、自分の身辺に戦争が起きないようにするにはどうすべきかを考えることである。
2022年4月13日と23年2月1日の拙稿はそのような視点によるものだが、ほぼ同じ内容のことを藪中三十ニ元外務事務次官(1948~)が朝日新聞のインタビューで語っている。彼も「(プーチンの)侵攻を止める方法はなかったのか」と問い、「外交の重要さ」を強調している。(2024年2月6日。本文は「です・ます」調)
「ウクライナ侵攻が不可避だったように言われるが、本当にそうだろうか。『侵攻を止める方法はなかったのか』ということだ。そのための外交が不在ではなかったか」
「侵攻前、ロシアはアメリカに『ウクライナをNATOに加盟させるな』と要求していた。これに対しアメリカはゼロ回答だった。ブリケン国務長官は『ロシアが誠意をもって話す用意がないので、ロシアと話しても無駄だ』と言うのだ。」
「私がアメリカの外交官なら『米ロの共通の理解として、当面の間、ウクライナがNATOに入ることはないという見通しを共有した』といったようなボールを投げる。そうした努力をなぜしなかったのか」
「ロシアの侵攻の3か月前にアメリカとウクライナが結んだ『戦略的パートナーシップに関する憲章』で、アメリカがロシアの侵攻阻止への協力姿勢を打ち出しながら、直前になってバイデン大統領は『アメリカは関与しない』と言い切った。この一貫性のなさ。抑止は完全に失敗し、外交不在であった」
「アメリカ外交を問題視すると『ロシアの味方か』と言われかねないので、誰も言おうとしない。もちろん100%悪いのはプーチン大統領であり、ウクライナへの侵攻は絶対に認められない。しかし侵攻を止められたかどうかは別問題である。」
「ウクライナでの戦線膠着が続けば、停戦に向けた動きが活発になるだろう。その際、アメリカの関与が不可欠であるが、今、アメリカ外交は中東問題で手一杯になっている。」
「戦後の平和は私たちが卑下するような話ではない。平和に豊かに暮らすことこそ国益だろう。それがおかしいと言う人がいるのなら、私はその人の見識を疑う。」
「日米同盟の堅持と一定の防衛力整備は必要である。同時に、東アジアの平和をつくる外交にも汗をかくべきだ。それが現実に根ざした安全保障であろう。中国と堂々と向き合い、中国に対して『ルールを守るべきだ』と平和攻勢をかけ、東アジアの平和維持に全力を尽くす。そのチャンスが現実にある。それをモノにする、それが私の期待する外交だ」(強調は引用者)
ウクライナ戦争の初期に、ロシアの戦車は旧式だとか、半導体不足で兵器の生産が遅滞しているとか兵士の士気も低いなどと言って、米欧の支援を受けるウクライナが優位であると解説していた軍事専門家も、支援にたいする米欧国内外の政論・世論の分断、ウクライナの弾薬不足、兵士動員力の圧倒的な差異などから戦局が膠着状態に陥っている現状をみて、ウクライナの勝利に疑問を呈するようになってきた。
アメリカとの軍拡競争に経済力で負けてソ連が崩壊した1990年前後の石油生産量は、日量650万バレルほど、原油価格は10ドル程度(指標であるWTI価格)であったが、近年は1,100万バレル、70ドルほどになり、経済制裁下でも中国やインドが輸入しているのでロシアのダメージは少ない。ガスの生産量も増え、ロシアの国力は冷戦で負けた当時のソ連より強くなっているのである。
「大統領になったら24時間で戦争を止める」と豪語しているトランプが再登場し、ロシアがドンバス地方を占領している現状に近い形での停戦となれば、ウクライナは何のために戦ってきたのか、ということになる。バイデンの再選ならば終わりの見えない消耗戦が続き、兵士の犠牲が増えウクライナでの住居・建物の破壊は続く。いずれにしてもそれが政治家が外交努力を怠った結果であるならば、その代償はあまりにも大きい。それは”よそ事”ではない、という自覚が我々にあるだろうか。
*リンク:『国民を犠牲にする政治とは』
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by rakuseijin653
| 2024-02-24 06:00
| 政治
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