2015年 07月 06日
「真逆」は市民権を得たか? |
日本経済新聞の一面コラム「春秋」に、「『真逆』という言葉を使ったら読者からお叱りをうけた。まだ市民権を得ていないようだ」とあったのは、2年前であっただろうか。この言葉に違和感を持つ戦中派としては、世の中に“同志”がいることに安堵感をいだいたのだが、そのような記者の戸惑いをよそにその後も勢いは増していて、もう市民権を得つつあるようだ。
テレビに登場するタレント、芸能人だけでなく昨今は、学者も文筆家も「真逆」という言葉を、まるで昔からある言葉であるかのように、何のてらいもなく使っている。
新聞の社説や本文記事ではまだ見かけないが、例えば毎日新聞の記者は「サンデー毎日」のコラムでこの言葉を使っている。NHKのテレビ放送でも、報道番組などではまだ使っていないと思うが、講師を招いた対話番組では、女性アナウンサーが同席のタレントと一緒になって「真逆」を口に発していた。また6月17日の朝日新聞が「ことばの広場・校閲センターから」という囲み記事で「真逆」をとりあげ、広島市の小学校の30代の教師が授業で使っている、という話を紹介している。
「真逆」という言葉はいつごろから出回り始めたのだろうか。ネットを覗いてみるとこの言葉は、2002~3年ころから使われ始め、2004年の流行語大賞にノミネートされたようである。上記の朝日記事によると『現代用語の基礎知識』(自由国民社刊)には2007年版に初めて登場、国語辞典では俗語などと断ったうえで収録に踏み切ったものが増えている、という。
同上朝日記事には、「真逆」を使っている人の割合を調査した結果に、学者の意見が添えられている。
<文化庁2011年調査
正反対のことを真逆と言うと答えた人 22.1%
16~19歳 62.8%
20代 53.1%
30代 37.5%
40代 28.2%
50代 20%以下
60歳以上 10%以下
尾谷昌則・法政大学文学部教授(日本語学)
「訓読み(ま)と音読み(ぎゃく)が交ざった『湯桶読み』をする珍しい熟語だが、これだけで誤用とは言えない。14年の国会会議録における発言数は『真逆』が『正反対』を上回っており、いずれ『正反対』が廃れるかもしれない」>
ということで、永田町の先生方の間でも「真逆」が流布しているらしい。 時々訪問している89歳の元高校教師や、洗練された文章に感心している60歳代と思われる女性のブログでも使っているし、実感としては文化庁の調査から4年を経て、40代以上の「使用人口」はこの数字より30%くらい多くなっているのではないだろうか。
テレビに登場するタレント、芸能人だけでなく昨今は、学者も文筆家も「真逆」という言葉を、まるで昔からある言葉であるかのように、何のてらいもなく使っている。
新聞の社説や本文記事ではまだ見かけないが、例えば毎日新聞の記者は「サンデー毎日」のコラムでこの言葉を使っている。NHKのテレビ放送でも、報道番組などではまだ使っていないと思うが、講師を招いた対話番組では、女性アナウンサーが同席のタレントと一緒になって「真逆」を口に発していた。また6月17日の朝日新聞が「ことばの広場・校閲センターから」という囲み記事で「真逆」をとりあげ、広島市の小学校の30代の教師が授業で使っている、という話を紹介している。
「真逆」という言葉はいつごろから出回り始めたのだろうか。ネットを覗いてみるとこの言葉は、2002~3年ころから使われ始め、2004年の流行語大賞にノミネートされたようである。上記の朝日記事によると『現代用語の基礎知識』(自由国民社刊)には2007年版に初めて登場、国語辞典では俗語などと断ったうえで収録に踏み切ったものが増えている、という。
同上朝日記事には、「真逆」を使っている人の割合を調査した結果に、学者の意見が添えられている。
<文化庁2011年調査
正反対のことを真逆と言うと答えた人 22.1%
16~19歳 62.8%
20代 53.1%
30代 37.5%
40代 28.2%
50代 20%以下
60歳以上 10%以下
尾谷昌則・法政大学文学部教授(日本語学)
「訓読み(ま)と音読み(ぎゃく)が交ざった『湯桶読み』をする珍しい熟語だが、これだけで誤用とは言えない。14年の国会会議録における発言数は『真逆』が『正反対』を上回っており、いずれ『正反対』が廃れるかもしれない」>
ということで、永田町の先生方の間でも「真逆」が流布しているらしい。 時々訪問している89歳の元高校教師や、洗練された文章に感心している60歳代と思われる女性のブログでも使っているし、実感としては文化庁の調査から4年を経て、40代以上の「使用人口」はこの数字より30%くらい多くなっているのではないだろうか。
古代から、人間が口に発する音が言葉になった、という”原理”からすれば、現代人が「真逆」を常用するようになった時点で、誤用とは言えないということになる。表意文字/翻訳文字を、音読み訓読みの混合も融通無碍に使い分ける日本語の特性だ。他のことには几帳面で正確さを求める日本人も、言葉に関しては“真逆”の性格をもつ民族のようである。
2015年6月17日朝日新聞*2020年10月17日追記:NHKへの問い合わせについての回答
NHKの番組をご視聴いただき、ありがとうございます。 お問い合わせの件についてご連絡いたします。「真逆(まぎゃく)」は、「正反対」という意味で、比較的最近、使われるようになったことばと捉えています。
一部の辞書には「2000年以降に広まったことば」(三省堂国語辞典第7版)と書かれています。
この辞書に掲載があるように、現在では広辞苑をはじめ、いくつかの辞書に「まったくの逆」という意味で掲載されるようになり、一定程度定着してきたことばと考えられます。
しかし、辞書によっては「俗語」と位置づけていて、定着してまだ日が浅く、馴染んでいない人も多いことばと考えられることから、NHKでは場面に応じて、慎重に使いたいことばと捉えています。
今回は貴重なご指摘ありがとうございました。ご意見を踏まえて今後の放送に役立てていきたいと考えております。
今後とも、NHKをご支援いただきますようお願いいたします。
お便りありがとうございました。
NHKふれあいセンター(放送) *リンク「いくらなんでも真逆とは」 ~ ~ ~ ~ ~
2015年6月17日朝日新聞
この辞書に掲載があるように、現在では広辞苑をはじめ、いくつかの辞書に「まったくの逆」という意味で掲載されるようになり、一定程度定着してきたことばと考えられます。
しかし、辞書によっては「俗語」と位置づけていて、定着してまだ日が浅く、馴染んでいない人も多いことばと考えられることから、NHKでは場面に応じて、慎重に使いたいことばと捉えています。
今回は貴重なご指摘ありがとうございました。ご意見を踏まえて今後の放送に役立てていきたいと考えております。
今後とも、NHKをご支援いただきますようお願いいたします。
お便りありがとうございました。
NHKふれあいセンター(放送)
by rakuseijin653
| 2015-07-06 08:00
| 言語(力)
|
Comments(6)
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rakuseijin653 at 2015-09-07 13:33
ついに、今年の芥川賞受賞作品にも「真逆」が登場しました。『スクラップ・アンド・ビルト』で、作者羽田圭介が自身の言葉として使っています。
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rakuseijin653 at 2015-09-23 21:37
野口武彦「最近テレビの有名なニュースキャスターがよく『まぎゃく』なる言葉を使うようになった。正反対という意味らしい。最初は何だかわからず、『まさか』の宛字で使う『真逆』という漢字の読み違いかと思っていた。ところが、実際には2004年の流行語大賞にノミネートされた新語の由。お笑い系から広まったらしい。ニュース番組が娯楽に近づいたのだろうか。言葉の格付けは既成事実で決まる。万人が使えば誤用ではなくなる。逆にいうと、今ならまだ乱用を止められる」日本経済新聞「江戸の風格」2007年10月7日
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コールドゲーマー
at 2017-02-27 03:29
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ニュース番組のアナウンサーが「意味深」って言葉を普通に使ってるの聞いて耳を疑いましたけどね。
「意味深長」って言葉を習ったことないんでしょうか。
「言葉の専門職」であるはずの人たちがどんどん日本語を解体していくのは「時代の趨勢」とはまた違うと思うんですがね。
「意味深長」って言葉を習ったことないんでしょうか。
「言葉の専門職」であるはずの人たちがどんどん日本語を解体していくのは「時代の趨勢」とはまた違うと思うんですがね。
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rakuseijin653 at 2017-02-27 17:42
> コールドゲーマーさん
コメント、ありがとうございます。
NHKのアナウンサーたる者、タレントなどとのトーク番組であっても不適切な言葉づかいですが、ニュース番組とあってはヒンシュクものです。金田一秀穂のような言語学者は、ヘンテコナな略語でも定着すれば「正しい言葉」だと言いそうですが、「意味深」が定着しないよう”抵抗”したいものです。ちなみに今、「いみしん」と入力したら即「意味深」に転換されました。
コメント、ありがとうございます。
NHKのアナウンサーたる者、タレントなどとのトーク番組であっても不適切な言葉づかいですが、ニュース番組とあってはヒンシュクものです。金田一秀穂のような言語学者は、ヘンテコナな略語でも定着すれば「正しい言葉」だと言いそうですが、「意味深」が定着しないよう”抵抗”したいものです。ちなみに今、「いみしん」と入力したら即「意味深」に転換されました。
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半畳亭
at 2019-01-14 10:01
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今朝もネット上のデイリー新潮で「真逆」なる語を見ました。「言語流動・多数派正義」思想は大抵の日本語学者先生が仰せになります。もはや三文字の「正反対」使用者は少数派になってしまったかも知れません。『新明解国語辞典』第七版を見ても「真逆」が収録されており、「逆」「正反対」を強調した俗語と説明されています。しかし、わたくしなどはこの「マギャク」と言う発音に、顎の疲れを覚えます。「ギャク」だけならともかく、前に「マ」がくっつくと「マ」から「ギ」への移行がぎこちなく、さらに拗音「ャ」が続くのですからもどかしさが頂点に達します。あれだけ音楽に馴染んでいるはずの若い世代が、この耳障りな発音を強要する「マギャク」を好む理由がどうしても理解出来ません。
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rakuseijin653 at 2019-01-17 13:49
半畳亭さま
コメント、ありがとうございます。おっしゃることに100%同意です。『新明解国語辞典』は飯間浩明氏が編纂に関わっていて、彼自身が最近のツイッターで「真逆」なる言葉を使っているのを見て失望しました。私自身はゼッタイに使いませんが、NHKの「日本人のお名前」でも女子アナが「真逆」と言っており、もう世の中の流れは止められないと諦めています。
ご参考:拙ブログ「いくらなんでも真逆とは」(カテゴリ・言語・2015年12月16日)
コメント、ありがとうございます。おっしゃることに100%同意です。『新明解国語辞典』は飯間浩明氏が編纂に関わっていて、彼自身が最近のツイッターで「真逆」なる言葉を使っているのを見て失望しました。私自身はゼッタイに使いませんが、NHKの「日本人のお名前」でも女子アナが「真逆」と言っており、もう世の中の流れは止められないと諦めています。
ご参考:拙ブログ「いくらなんでも真逆とは」(カテゴリ・言語・2015年12月16日)