2019年 02月 05日
昭和憲法下の改元とは |
「元号の使用には天皇の支配に服するという象徴的な意味合いがある」
歴史研究家・呉座 勇一
朝日新聞1月15日のコラム『歴史家雑記』
天皇が支配者ではなく象徴として位置づけられている現代の文脈で言い換えれば、冒頭の一文は、「古来、元号の使用は天皇の支配に服するとう象徴的な意味合いがあった」と過去形の表現になるはずだ。そうなっていないのは現代にも、「天皇の支配に服する」ことに身の安泰を委ねる人たちがいるからであろう。
5月の皇位継承にともなう新元号は、4月1日の閣議決定後公布されることになった。元号の書き換えなどによる混乱を最小限にする、ということから言えば、特に問題とするほどのことはない手順と受け止めるのが国民一般ではないか。
ところがその過程で、「天皇の支配に服する」“伝統”を重んじる保守派から異議が出された。異議と言うより抗議である。
その主張は、
「新元号を閣議決定する前に天皇に直接内奏すべき(=事前承認を得る)」であり、「新元号は皇太子が即位後に定めるべきで現天皇の在位中に公布することは、失礼である」(百地章国士舘大学特任教授・朝日新聞1月17日))というものである。
彼らは「古来の伝統」に固執して、事実上「元号は天皇が決める」形をとりたいのである。
これら、天皇を支配者とした明治憲法の呪縛に囚われた保守派の主張は、天皇を象徴とする昭和憲法とその下での改元であることから目を逸らす。もっとも、彼らの思想的立場は憲法改定して天皇を元首とすることであるから、その意味では一貫している。
正直なところ国民の大半にとって元号とはもはや「慣習」であって、憲法との関係については意識しているとしても漠然たるものであろう。以下は、改めて「昭和憲法下の元号とは」という問題を認識させる憲法学者横田耕一九州大学名誉教授の解説である。(朝日新聞2019年1月17日インタビュー)
「憲法は天皇が国政に関する機能を有しないとし、元号法は元号は内閣が政令で定めるとしている。政令の交付は天皇が内閣の助言と承認のもとで行う国事行為で、天皇の了承を意味しない。保守派はそれを承知で、戦前までのように新天皇が元号を決めたかのようなイメージを作ろうとした。
元号の本質は天皇が時を支配すること。元号は古代から天皇が定めてきた。天皇による統治を強めるため、明治時代に一人の天皇に一つの元号とする『一世一元』の制度が始まった。
そうした旧元号制度は天皇が象徴となった新憲法の施行とともに廃止され、元号は法的根拠を失って慣習となった。だが1979年成立の元号法で、皇位継承があった場合に限り元号を改めるとされ、『一世一代』が復活したことで、国民主権の憲法と緊張関係が生じることになった。
憲法上、天皇の地位は主権者たる国民が置いてるもので、国民が天皇を『戴いている』わけではない。元号も元号法上、国民のものとなったはずだが、天皇の代替わりと連動して時の数え方が変わることで、『天皇の元号』という意識が温存された。政府と保守派の対立は、国民主権と元号をめぐる問題のありかを示している。改元を機に、私たちにとって元号とは何かを考えることは、国民と天皇の関係を問い直すことにつながる。
前回は内閣官房副長官が宮内庁長官に電話し、新元号を事前に新天皇に伝えたと当時の政府高官が証言している。政府の配慮は通常の政令ではあり得ないもので、今回の保守派の主張と同じように、『天皇の元号』の名残の表れだ。天皇の国政関与を禁じた憲法上も大きな問題があり、繰り返すべきではない」(強調は引用者)
参考:島薗 進上智大学大学院教授「今、改めて『元号』を考える」
https://imidas.jp/jijikaitai/l-40-248-10-03-g563
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by rakuseijin653
| 2019-02-05 08:00
| 天皇
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