サマータイム“反対派”の愚論 |
日本でサマータイムを導入するかどうかの議論は1995年から何度か再燃しているが、そのたびに上げられる反対意見の中には、愚論と思えるものがある。
サマータイム導入による省エネ効果は知れたものだと言うし(日本全国の消費エネルギー、原油換算3億8千7百万リッターのうち50万キロリッター*)、湿度の高い日本の風土には合わないということも一理ある。移行に伴う初期投資に1000億円*かかるという試算もあるので賛否両論があってもいいが、大手新聞の社説や週刊誌上の著名評論家でさえ勘違いしていると思われる反対論があるからおもしろい。
*「地球環境と夏時間を考える国民会議」の2010年の資料から
代表的な勘違いの例として、「サマータイムに合わせて鉄道やバス、航空会社などの時刻表を書きなおさなければならないから大変だ」と言っている新聞の社説や週刊誌のコラムを見たことがある。サマータイムになったからと言って時刻表を書き換える必要はないのだ。朝の7時が6時になると勘違いしてるのではないか。サマータイムでなかったら6時である、というのは残像の世界のことであり、サマータイムになれば7時は7時なのである。会社の始業時刻が午前9時で、最寄の駅8時発の電車に乗っている人は、サマータイムになっても9時始業は変わらないのだから同じ8時発の電車に乗ればいいのである。(航空会社はサマータイムに関係なく従来から夏、冬、年二回時刻表の変更を行っている)
もう一つの勘違いは、サマータイムになると早く起きるので寝不足になる、体調を崩すというもの。これも今まで6時に起きていた人が5時に起きなければならないから寝不足になると思っているようだ。確かに最初の日は睡眠時間が一時間少なくなるが(初日は一日23時間となる)、翌日からは一日24時間で回転し6時は6時になる。睡眠不足になると言っても精々2-3日もすれば慣れてしまうことである。香港から一時間時差のある日本に来てもすぐ慣れるのと一緒である。また夜更かしをするから寝不足になるということを言う者もいる。これも11時に寝て6時に起きていた人は、サマータイムになっても同じ時刻、11時に就寝、6時に起床するのが普通である。睡眠時間は同じ7時間であり、サマータイムだから寝不足になるということはない。もちろん人によって例外はあろう。
時計やコンピューター、電化製品の時刻を年二回合わせなければならないから面倒だという声もある。欧米その他の国で60年も70年もやってきていることを面倒だから嫌だというのも論理的でない話である。それに最近のデジタル機器は自動になっているので、説得力は欠ける。
また、戦後昭和23年から27年までのサマータイムを経験した者のなかには、サービス残業が増えて中小企業などでは過剰労働になると言って反対する者もいる。サマータイム導入後数年はそういうこともあるかもしれないが、戦後と今では労働環境も社会の意識も全く変わっている。そのことを考えない思考回路はいただけない。あれこれ理屈をつけて現状を変えたがらないのは、日本人の保守的な国民性にもよるような気がする。
原発事故により、政府は中長期エネルギー計画の見直しを迫られ、まだ定まっていない。原発稼働停止により火力発電の稼働が高まっているが、エネルギー自給率の低い日本として、省エネと温暖化対策の観点から、もう一度サマータイム導入の可否を検討してもよいのではないだろうか。